これも茶道_6(よしなよ、姐さん)

  大寄せ10
   (写真は本文とは関係ありません)

 小生が、用心棒抜きでひとりで出かけた、比較的小規模な大寄せでのことです。

 このとき小生のすぐ後ろについた、一面識もない女性が、小生に対して
「私は何もわからぬ初心者です。 よろしくご指導ください。」と挨拶をしてきます。
「いやいや、こちらこそ初心者ですのでご迷惑をおかけします」と小生も返しました。

 ところが、こちらが初心者だとわかると、その自称初心者の口元に一瞬
不気味な笑みが走るのを確かに目にした小生は、不吉な予感を覚えたものです。

 さて、茶会が始まるや、小生の左隣に座った自称初心者は、最初に菓子が
回ってきたときから、「はい、それを左手で押さえて、右手はそうそう...」と、
待ちかねたように、小生に指図します。

 小生はだんだん右向きに姿勢をずらし、左隣から見えぬようにしますが、
それに合わせて、自称初心者もだんだん覗きこむように姿勢を変えてきます。

 今さら席を替わるわけにはいきませんし、この調子では小生が席を替われば
きっと付いてくるに違いありません。

 「はい、お茶を飲んだら飲み口を拭いて...」
自分のお茶はそっちのけで、これが本日の唯一の使命だと言わんばかりに
夢中になって小生を指導しています。

  大寄せ9
   (写真は本文とは関係ありません)

--- 我慢の限界を超えた小生は、とうとう隠していた本性を現しました。

「よしなよ! 姐さん。 教える時は相手をよく確かめるもんだぜ。」
というやいなや、小生は持っていた茶碗を目にも止まらぬ早業で回転させながら
右手から左手へ移すとともに、懐から取り出した1枚の懐紙をその上にそっと載せ、
あっけにとられる人々を後にして、颯爽と部屋から姿を消したのです。
 後に残された懐紙を覗きこんだ人々は、墨の色も黒々と「さすらいの茶人」と
したためてあるのを認め、あれがかのさすらい人ならんとうなずき合ったものでした。

--- という幕切れなら、どんなに気分が晴れたでしょう。

 だが実際には、最後まで纏わりつく押しかけ師匠に、すっかり嫌気がさし、
黙って会場を後にした小生の後ろ姿は、さすらい人ならぬ患い人のようだった
といいます。 (つづく)

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