忠実な執事が連絡を入れてくれたので、あとは小生が茶室へ
降りて行けば、抹茶が飲めるという手筈が整いました。
でも客は小生ひとりだけの様子で、ということは、あの茶室が
小生の貸切ということでは? う~む、 微妙~。
鶯宿亭と名付けられたその茶室は、山腹の木々の間に見え隠れする
絶好のロケーションにあり、しかも反対側の海が一望できるという
素晴らしい景観に恵まれています。
単身乗り込んだ小生は、入口の引き戸を開いて、「たのも~」というつもりが、
「あのー、執事から... とにかく連絡などがあったのではないかと...」
どうも歯切れが悪くていけません。
それでも、、佐吉庵へ初めて行った頃に比べると、大胆になったものです。
「どうぞお上がりください。」 すぐに、それらしき、お女中が出てきました。
「お呼びするまで、どうぞこちらのお部屋でお待ちください。」
広い立派な座敷に通されました。 もちろん小生ひとりですので、
ゆっくりくつろいで、用意された白湯を飲みながら、庭など眺めます。
お呼びするまで? ということはこの立派な座敷以外に、どこかに小生をもてなす
別の部屋があって...。
す、すごい。 これは本格的だ。 貸切の一人茶会だ。
これがもう少し前の時期であったなら... と思いを巡らせずにはいられません。
小生はどう対処していただろうか。
貸切の重圧に耐えかねて、掛け軸の後ろの抜け道から- ということはないにしても、
「今、急に連絡が入って、至急帰らなくては...。 いや~、残念だなぁ。ははは」などと、
姑息な言い訳をあれこれ考えていたなんてことは充分にあり得ます。
少なくとも、今ごろ胃がシクシク痛んでいたに相違ありません。
今の小生はというと、相変わらず茶道の知識や作法についてはさっぱりですが、
何といっても、さすらいの経験があります。
どんなに窮地に陥っても、何か打開の方法はあり、最後はめでたしめでたしとなる
はずだという、自分なりの信念です。旭や裕ちゃんも、いつもそうだったではないか。
結局、正義は勝つのだ。 (あまり正義は関係ありませんが)
ともかくも今回は、(多少の不安はあるものの)今から何が始まるのかと、
ワクワクしながら待つことができるのです。 (つづく)