小生の心の中で、今や教祖か預言者かのような存在と化していて、
それでいてどうしても再会することのできぬ「佐喜知庵」の、謎の師匠
についてのお話の続きです。
さて、昨年の終わり頃、たまたま近くを通りかかったのと、時間が
うまく都合がついたので、久し振り(3年振りぐらい)に、佐喜知庵へ
行ってみました。
よく見ると、初期の頃に比べて、全体の雰囲気にそれなりに年月の
経過が感じられ、以前よりも結構な風情が漂っているようです。
例のごとく勝手に玄関を開け、勝手に靴を脱いで上がりこみ、そして
茶室に通じる廊下を歩いている小生に対して、部屋の中から(突然に)
「どうぞ中へお入りください」と、声がかかったのですが、声は違っても
このタイミングが、あの懐かしい魔王の時とそっくりで、(つまり、何も
知らずに初めて佐喜知庵に来た時とそっくりで)なんとはなしに、胸が
高鳴るのを感じながら、部屋の中に入りました。
そこで小生を待ち受けていたのは、もちろん魔王とは全然別の師匠で、
歳もずっとお若いように見うけられたのですが、それにしても、小生が
たった一人の客であることもあの日と同じで、どういうわけか、魔王の
ことをまざまざと思い出さずにはいられないような雰囲気だったのです。
***
抹茶を頂いたあとで、「実は、15年近く前にこんなことが...」と、
一人客の気楽さから、その師匠に魔王との出会いの一幕を思いきって
話してみました。
その師匠は感慨深げに小生の話を聞いた後で、
「ひょっとすると、そのお方はK先生ではないでしょうか。」とおっしゃい
ました。 流派は(この師匠とは別の)S流とのことで、そう言われれば
そんな気もしますし、年齢もだいたい一致するようです。
う~む、これはひょっとするとひょっとするぞ_
「体型はたしか、こう_ 割に太めで...」と、小生が失敬な物言いを
しますと、「ええ、わりに恰幅のおよろしいお方です」と、さすがはうまく
お答えになります。
「でも、そのK先生はつい先日最後の茶会を催して引退なされました」
げっ、 ほんの少し遅かったか。
だからもっと早く何らかの行動を起こしていればよかったのに...。
「いえ、でも、この佐喜知庵での呈茶には、時々いらっしゃると聞いて
おりますよ」
えっ、そうなんですか。 それなら、まだ何とかなりそうな気が...。
というわけで、後で事務所に寄って、呈茶関連の予定表を頂きました。
それによると、(この時から)およそ2か月後に確かにK先生の呈茶が
あるのですが、それは1年間でたった1度だけの担当なのです。
つまり_
これが、本当に最後の機会かもしれません。 (この項つづく)