案内の立札に「伝想庵茶会」と書いてあります。
茶会? 長年のさすらいの勘で、こんな些細なことにも異常なものを感じます。
充分に警戒しつつも中へ入ってみると、
おや~ 間違って貸切の席に紛れ込んだか?
とにかく、客が皆きっちり和服で固めた女性ばかりです。
小生はと見ると、和服のはずはないですが、まあ、運よくネクタイなどを
締めていましたので上出来で、まずは危うく第一関門突破といったところ。
全然動揺などしていない振りをしながら、すばやく周りの様子を観察すると、
どうやら、奥の部屋で先の組がお茶を飲んでおり、次に飲もうという順番待ちが、
この部屋に集まっているようです。
つまり、この頃には小生も何度か経験のある「大寄せ」
(一度に「多人数×短時間」で行う、簡略化された茶会)のようなものが
催されているらしいのです。
しかしそれにしても、男は小生一人で、周りはなんだか完璧なヴェテランといった
風情のおばさま方にすっかり取り囲まれており、一体どこでどう間違って、
こんなところに小生は座っているのだろうと、われながら呆れてしまいます。
普通は、ふと気がついたらこういう場所にいた、などということは
あまりないでしょうから、このあたりが、さすらいの茶人たる所以です。
間もなく、われわれの番が来て、広間に入りました。 人数はせいぜい5~6人で、
伝想庵ではいつもこんな調子らしく、とても気のきいた企画には思えます。
さりながら、小生は大寄せといえども、用心棒の助太刀なしで臨んだ経験はなく、
しかも今回はなんだか、一部の隙もないような、あたかも今から茶道の上級審査が
始まるのではないかといった雰囲気を、周りのヴェテランたちが漂わせているのです。
このみごとな緊張感を、妙なよそ者が今にも台無しにするであろうことを、
すっかりお見通しの小生としては、まさに気が気ではありません。
しっかりしろ、さすらい人よ。 お前はこんな修羅場を何度もくぐってきたのだから。
でも... これは何だ。
運ばれてきた物を見て、さすがにびっくりしました。 (つづく)