ずっと不潔に思っていた陶器の正体は、織部(おりべ)という種類の
焼物であり、そして例の青緑色の塗料のようなものは、汚れではなく、
芸術的な感性と意思をもって、わざわざあのような色の釉薬(陶器に
着色する薬)を垂れ流しているのだ、ということも解りました。
つまり、織部は不潔ではない! ということを理解した小生ですが、
この小さい頃の記憶の刷り込みは、なかなかのことでは消えず、
織部の抹茶茶椀というものがあり、これで抹茶を飲む人を初めて目に
した時は、思わず顔をそむけてしまったものです。
その後、小生自身が初めて織部で抹茶を飲む羽目に陥った時は、
その様子を見ていた人が皆、「これほどまずそうに抹茶を飲む人は
生まれて初めて見た」と、思ったに相違ありません。
そうこうする内に、段々と織部についての知識が増えてきました。
戦国時代以降に古田織部という武将の茶人がいて、彼の天才的な
感覚は、各方面において次々と前衛とも言える芸術品を創出し、特に
彼の名を冠した織部という部類の陶器は、世界でも類を見ないような
不思議な非対称の形状と自由な絵付けと例の青緑の汚れでもって
確固たる美の世界を確立している(といわれている)ようなのです。
但し、実際にはどれほど古田織部が直接に関わっていたかは、
あまり定かではないようですが。
こうやって、いろいろな知識がついてくると、不思議なもので、
あれほど嫌っていた織部が、何だか結構な芸術品に見えてきます。
小さな事柄ながらも、これが文化を知る、触れる、ということでしょう。
今まで大して知りもしないで、なんとなく避けてきたものが、よく見たら
結構良いものであった... つまり、知らないままであったなら
勿体無かった日本文化のひとかけらがここにあったわけです。
そして、こうなると、今度は別の種類の焼物についても知りたくなって
くるのは、当然の成り行きと言えます。 (つづく)