最後のほうはよく覚えていませんが、とにかく命からがら脱出してきました。
ただ、わざわざ小生を見送るため、魔王みずからが玄関まで出てこられたことが、
記憶の片隅に残っています。
帰りの道すがら、車の中でずっと先ほどまでの出来事を反芻していました。
「いやあ、大変だったなあ。 とんでもない所へ入り込んじゃったよ。」
「これからは、もっと慎重に場所を選ばないとな。 どうも最初から悪い予感がしたんだ。」
「あの魔王が最初に現われたときは、おどろいたなあ。」
「もう少し、うまく菓子が食べられたら良かったんだが、 べたべたしてたもんな。」
「それにしても、よく無事で帰ってこられたもんだ。」
でも...何か、後味は悪くありません。
普通なら、もう二度とあんな所へは近寄らないぞ、と固く誓うところですが、
また行ってもいいかな。 などと考えている自分にびっくりします。
あんなに緊張して、恥をかいて、菓子も抹茶もさっぱり味がわからなくて、少しも
よいことがなかったのに、何故また行こうなどと思うのだろう。
--その答えは、何年か後に(逆説的に)はっきりと解るようになるのですが、
このときは「今度は、もう少し勉強してから行ってみるかな。」
「そうしたら、あの魔王もびっくりするに違いない。」 などと無邪気に考えながら、
一人ほくそ笑んでいたのです。
とまれ、これが小生と茶道との初めての出会いでした。
そしてその後十数年、どんな運命のいたずらか、あの魔王にもう一度お会いする
機会をどうしても持てないまま..、 今日に至っています。 (つづく)